category:小説ドッキング
夏のしにがみ
市営プールは今年で閉鎖。毎年こんなに超満員なのに採算が取れなくて閉鎖なんてバカみたい。三階建てのウォータースライダーは開園と同時に長蛇の列。今年で本当に終わるなんて信じられない。隣町のプール? あんなこどもっぽいところ行ってられない。
知ってますか? このプールには河童が出たことがあるそうです。緑色の方じゃなくて、紫色の方。有名な先生が取材? 調査に来たこともあるって。言ってた。何人か溺れて死んじゃった。河童が足を、ね。だって。そんなわけないのに。
おばあちゃんも言ってたけど、ビートルズも来たことがあるらしい。そんなわけないじゃん。でも本当なんだって。確かに。何事も疑いだしたらキリがない。
市営プールの跡地には屋根付きのフットサルコートが出来るらしい。スケボーの専用練習場でも、Eスポーツのスタジアムでも、パターゴルフ場でも、小さな図書館でも、フィットネスクラブでも、別に何だっていいけれど、何を作ってもこんなに人が集まることはもう無いんだろうな。河童も住みにくいね。
わらび餅屋の軽トラックが駐車場に入ってきた。
そろそろ帰りの客を狙って、わらび餅屋とかアイスクリン屋とか巻き寿司屋とかがやってくる。みんな隣町か、そのまた隣町か、どこかへ行ってしまうのだろう。
遠雷。